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社長業とは何か、その心構えとあり方

社長業は、儲け方が下手だと務まらない。

たとえ、全社員と家族の幸福や、広く社会に貢献するという崇高な目的を掲げていても、まず、金儲けが下手であれば、たったそれだけで全員を不幸にしてしまうからである。

このことは、職業というものの、本来、存在する価値やコンセプトを比較すればよくわかることである。

たとえば、教師という職業は、良い子を育て世の中に送り出すことを使命として存在しているのだ。医師は、病に苦しむ人たちを救い健康体にすることで存在の価値があり、政治家は、暮らしやすい世の中を築くためにある職業なのだ。それは、どんな時代でも変わらないそれぞれの職業の存在する価値である。

という職業は、実に身近なところで、毎日毎日の社員の生活の糧を握っている職業である。どんなにキレイ事の理屈をいっても、御託を山ほど並べても、現実に不幸の大半が金で解決していることを、社長は肝に銘じて知るべきである。身を殺して仁をなすの、のめり込んだ職業意識がなければ、まず務まらない。

まして、資本主義は過度の成熟段階を迎えて、競争という科学はとてつもなく急速に発達してしまっている。社長は金儲けという人間の本音の部分で、ふてぶてしく資本主義の代表選手としてその権化に徹すべきである。

業績を落として苦しんでいる会社、人が集まらない会社、売れない商品を抱えている会社、過剰な設備投資や固定資産投資で資金繰りが困難な会社、一時の儲けを永遠に続くものと錯覚した会社、サービス業がサービスを忘れ、客商売が客を忘れて、その挙句、売上げは減少し、利益も損となってしまい、全員の不幸が始まる現実を多く見てきた。

どんなに崇高なロマンや哲学や思想があっても、それが重要で、実現させなければならない目的であればあるほど、儲けるということへの戦略や戦術が稚拙であってはならないのだ。実現できなければ、崇高なロマンや哲学や思想も、絵に画いた餅のようなものになってしまう。

世の中には油断をした社長も多いし、的がはずれた社長も数多く、業に徹していない社員のような社長もいる。中には、自分の人生や事業をまるで他人の人生や事業のように景気や社員のせいにする社長もいる。

しかし、社長は誰でも、儲かる会社にしたい、繁盛させたい、発展させたいと願っている。それは、共通した、他の職業にない、祈りのように高邁で威厳に満ちた、そして、欲望に満ちた、執念深い願いである。

ただ、その多くの社長たちが、どうすれば儲かるのか、これからどちらの方向へ行けば発展するのかという根源の哲理を理解していないだけである。

社長業の中で、どんな時代に至っても、特筆して重要なことは、これから三年先、五年先、十年先また永遠に、売上利益を確保していくためには、どちらの方向に進めばいいか、意図して方向性を決定することである。

事業経営の戦略とは、意図して方向性を決めることなのだ。このことがわかっていない社長がいる。社長が意図して方向性を決める理や業を知らなければ、必然的に事業を伸ばすことなどできるわけがない。

時には、偶然にその道に入って成功した人もいるが、それは極めて稀であり、戦略的であるとは言い難い。多くは偶然で入った道でも、その後の必然的な展開で繁栄や発展が決定的になったものである。

事業には偶然は付き物であるが、繁栄発展にはそれ以上に必然というものが付きものである。

大切なことは、社長として事業を必然的に伸ばすためにはどうすればいいのか、また、事業を安定させて永い繁栄を築くためには、具体的にどうすればいいのか、その戦略戦術の哲理や秘訣を社長業に携わるできるだけ気力体力ともに旺盛な時に、実務で会得すべきなのである。

事業繁栄の発展の二大戦略

事業の繁栄発展の究極の方向性は、たった二つのコンセプトから成り立っている。

一つは成長拡大させること。もう一つは安定させることである。この二つの哲理を同時に戦略課題とし、実行して、はじめて繁栄発展が起こる。二つのうち、どちらかの一つが欠けても事業の永遠の繁栄発展はあり得ない。

・・事業の成長拡大を実現する戦略・・

まず、「成長拡大」させることとは、具体的にどういうことなのか、どうすれば成長拡大が起こるのかを社長として知って実行していかなければ、必然的な繁栄発展を画する事は困難である。

事業の「成長発展」とは、前年よりもお客様の数を増やし、そのお客様に、前年よりも売価の高いもの、粗利益の多いものを買っていただくことである。もし、前年と同じ売価で同じ粗利益の売り物であれば、前年より数多く買っていただくことでしか成長拡大は起こらないのだ。

さらに、事業の体制の根幹となる社員と資本と設備の質と量を成長拡大に合致させていかなければ成長拡大は起こらない。

これが「成長拡大」の哲理である。これ以外の成長拡大の方向性はあり得ない。

この哲理を実行するために、社長は、いつでも、新規顧客の開拓を課題とし、新しい事業や新しい商品の開発を戦略の柱として掲げ、人を集め、資本の充実に励み、設備の革新をなし続けなければならない。

社長として事業の成長拡大を願うならば、このことを、真実よく理解して不変の戦略テーマとして励んでほしいものだ。

たとえば、あなたの会社の昨年のお得意様が、仮に600社で、今年も同じ600社であれば、それは成長拡大よりも、むしろ衰退を意味しているからだ。また、その600社が今年も昨年と同じ売価で、同じ粗利益で、同じ数量しか買ってくれなければ、それだけで、あなたの会社は給料さえ上げることができないということなのだ。本当にわかってほしい。

成長や拡大は、どんな事業でも、この600社を800社にし、その800社を1000社にも2000社にも、10000社にもする方向でしか計れない。または、昨年よりも、高い売価で、多い粗利益で、多い数量を買っていただくことでしか計れないのである。

ディズニーランドのように多くの顧客を集めるテーマパークでも、ダイエーのような大型スーパーでも、街中の小さな家電の小売店でも、下請けの会社でも、規模が大きくても小さくても、見込みでも受注でも、メーカーでも商社でも、古くても新しくても、田舎でも都会でも、業種や業態が異なっていても、日本でも世界のどこで事業を営んでいても、このことは変わらぬ哲理である。

こんなことは、決算書を診るまでもない。社長に会って、「昨年のお客様と今年のお客様の数はどちらが多いか」と質問するだけで、経営状況の大概は掴めるのだ。それほどの大事である。顧客が増えている会社は成長拡大し、減っている会社は衰退しているに決まっているのだ。

それでも稀に、顧客の数が増えないで、成長拡大していることがある。それは「昨年よりも売価の高い新商品や、粗利益の多いサービスや、数量が多く出るものを開発した」からに他ならない。

社長は、お客様を増やすために、地域を新たに加え、新しい商品を追加し、店舗を新設し、新規顧客の開拓月間を設け、全社員でこれに取り組むシステムを作り、見込み客リストを作成し、広く宣伝し、紹介を頼り、イベントを開き、飛び込み訪問を行い、販売の方法を研究し、サービスの向上に努め、企画力を磨き、生産効率を上げ、ライバルを意識し、そのライバルとあらゆる方位で優位となる差別化を目指さなければ、成長や拡大は実現できない。

社長は、いつでも戦っているのだという意識を強く持ち、油断せず、のめり込んで、しかも勇気を奮ってマーケットの創造に挑戦し、方向を決定し、全員の士気を鼓舞し続けなければ成長拡大を勝ち取ることなど決してできない。


・・事業の安定を実現する戦略・・

事業の繁栄発展のもう一つのコンセプト「安定」とは、いったいどういうことなのか。

「安定」とは、あなたの会社で売っているものが何であっても、商品であっても、サービスであっても、形があってもなくても、その売り物を、同じお客様が、繰り返し、繰り返し買ってくれることである。

これが「安定」ということの哲理である。

これ以外の「安定」はないのだ。

たとえ、一時的に売価の高いものが売れたり、受注できても、付加価値が多くあっても、あなたが売っているものをお客様が二度と買わなかったり、長い間買ってくれないということであれば、事業の安定など決して計れない。

もし、こういう事業を作れば、事業の寿命は瞬間的なものでしかないといえる。

どんな事業でも、お客様がない事業などあり得ないのに、頭を下げることを嫌い、客を忘れて威丈高に商売をやろうとしていたり、売り物を磨くことを忘れてしまいライバルとはるかに劣ったものを提供していたり、永続的に取引ができるシステムの開発に努力や工夫が不足していたり、結局、繰り返し、繰り返し、繰り返し可愛がっていただくことに意を尽くさないために、倒産したり業績を落としてしまう会社が多い。

社長として事業を安定させる方向性、つまり、自分の会社の安定を築く根本戦略について明確な掌握がなされていなければ、的確な手が打てないことになってしまう。

世の中には、何の努力も工夫もせず、一見、ごく自然に安定しているように感じられる事業もある。しかし、これらの事業の多くは、内実、巧みな戦略に彩られている場合が多い。

ヤクルトや、各社の牛乳や新聞が、なぜ店頭販売よりも宅配販売に戦略を傾注しているのか、社長は、自分の会社と比較して研究すべきなのである。

これらは、店頭販売を主力にしたら、売れたり売れなかったりするからだ。つまり不安定な事業になってしまうからである。顧客は喉が渇いていれば購入し、渇いていなければ買わない。新聞だって読みたくなければ購入しない。

しかし、宅配を中心に売上げを構成すれば、たとえ飲まない人がいて冷蔵庫の中に眠っていても、新聞を一読だにしなくても、キチンと月末には集金できるのだ。繰り返し、安定的に購入されることを狙ったシステム構築であり、戦略なのである。

鉄道やバスが定期券を発売するのも同じ戦略である。貸しビルのオーナーは、同じような建物なのに、ホテル経営と比べて安定性の高い貸しビルに投資したのだ。リースやレンタルも、一度に売上げを確保するよりも、長期の売上げを狙った繰り返しのシステムである。

安定は成長拡大よりも至難の業である。安定をシステムとして捉えることは、社長として不可欠の戦略課題なのだ。

さらに、社長は自社の売り物を磨かなければ安定を勝ち取ることはできない。

お客様がなぜ自社のものを購入されているのか。逆に、なぜ、他社から買われ、他社に発注しているのか、その要因や要素の一つひとつが、お客様の購入動機であり、社長にとっては磨くべき売り物なのだ。

「値段が安いから」あなたの会社から買うんだ。「品質がよいから」「企画力があるから」「納期が早いから」「デザインが先端だから」「サービスがよいから」「贈り物をいただくから」「感じがいい、親切だから」ーーーとお客様から言われる。

これらはすべて、売上げや利益に直結する大事な売り物である。もっともっとこれらの売り物を磨くべきである。すべての売り物は、何時までも絶対的ではないからだ。

他社の売り物と比較されて、優れていれば買われるという実に相対的なものなのである。今日、ライバルより優れていても、明日、ライバルがもっと優れたものをお客様に持っていけば、お客様は平気でライバルの売り物を買ってしまう。

だからこそ、他社を意識し、他社より優れた売り物を創り出すことが、繰り返し購買を起こす一番の大要因となる。社長として実行すべき安定の二番目の戦略課題なのだ。

また、社長はお客様第一という考え方を貫いて安定を創造すべきでである。

お客様第一という思想の根底には、お客様に好かれることを行うという情の課題がある。世の中の、あらゆる事柄の中で、情を越えるものはないというが、政治も、経済も、学問も情を越えることはできない。情とは喜怒哀楽の四者のことであるが、政治も経済も学問も、極みは人間の幸福という情のためにあることを忘れてはならない。

嫌われて流行る店はないし、好かれて流行らない店もないのだ。

お客様に好かれるために、いったいどうしたらいいのか。交わす言葉も、態度も、電話も、手紙も、贈り物も、イベントも、その行動の一つひとつが選び抜かれたものでなければ、安定を築くことなど難しい。


社長にとって「もっとも大切な仕事」とは何か?


他の仕事は、後継者や社長候補、経営幹部、あるいは、外部の専門家や、優秀な部下に任せてもいいが、「これだけは社長自らが行なうべき」という仕事が2つあります。しかしながら、その重要性に気づかず、失敗する事例が少なくありません。

■「戦略の立案」と「人材育成」こそが社長の仕事である社長が最後まで他人に任せてはいけない仕事、つまり、「もっとも大切な仕事」が2つあります。それは「戦略の立案」と「人材育成」です。とくに中小企業は、これらの2つの仕事を社長が自ら行なうべきであり、他の人、たとえば、経営計画をコンサルタントや経営企画室・社長室に、そして、人材育成を人事部に任せてはいけないのです。それで失敗した事例を2つご紹介しましょう。

■「会社の根幹となる戦略の立案」を部下に任せてはいけない



あるアパレルメーカーは、社長が32歳で創業して以来、あらゆる面で自らのセンスを活かし、10年間、増収増益を続けてきました。しかし、同業他社から、「万一社長が倒れたらどうなる」「あれではやがて成長にも限界がくるだろう」と批判やアドバイスを受け、社長は、社員の自由な発想を尊重する経営に方針を転換しました。

そして、「新しい商材を作るべきだ」という提案でマーケティングを実施、「お客様の声を聞くため」に小売店を開業、「第2の柱」としてレストランを開業。社長は指示を出さずに見ていたところ、たちまち初めての赤字を出すことになりました。

ここでの問題は、本来社長が判断・決定すべきである「会社の根幹となる戦略の立案」を部下に任せてしまったことです。部下に仕事を任せても、部下の報告をもとに、戦略は社長が立て、指示を行なわなければ、会社は羅針盤のない船となってしまいます。

■社長がすべてを把握していないと簡単に倒産するもうひとつの事例です。大阪のあるメーカーは、年商30億円の中堅企業で、各地に営業所をもっていました。社長が高齢で逝去したため、生前の社長の指名により、娘婿が後継者として新社長に就任しました。ところが、全店の3分の1、約10億円の売り上げを上げる東京支店が、新社長就任後、日報・月報を提出しなくなったのです。東京支店長には、亡くなった社長の長男がなっており、5年前に社長と衝突して一度会社を去ったものの、3年前に復帰していました。長男には東京支店を伸ばしたのは自分だという自負があり、新しい社長になんか従うものかという気持ちがあったのです。

東京支店のこのような行ないをきっかけに、他の支店からも報告がなされなくなり、ついに、新社長は、全体の受発注の把握さえできない状態となりました。こうして、この会社は連絡体制が崩壊し、マネジメント不能の状態に陥り、ついには、資金ショートを起こして倒産に至りました。すなわち、中小企業は社長がすべてを把握していなければ簡単に倒産するのです。

■新規事業こそ社長が取り組むべき仕事さて、新規事業に進出する場合についても、社長自らが取り組む必要があります。新規事業は、部下はもちろん、社長でも、商売の本質やマーケットが分からず、戦略的判断のつかない分野であり、軌道にのるまで時間を要することが多いからです。資金投入や撤退のタイミングを判断しづらく、これこそ、社長自らが取り組み、経営判断を行なわないと難しい部分が多くあります。これに比べて、本業は、部下の報告だけで、社長が的確な指示を出せるため、本業を後継者や社長候補、専務や息子など若手に任せ、新規事業こそ、社長が取り組むべき仕事と言えるでしょう。

■社長自らが語りかけることで優秀な人材が育つ



次に、人材育成ですが、中小企業が人材を得るには、社長自身の思いを語ることが重要です。社長自らが、情熱をもって語りかけることで、会社の規模や収益とは異なる次元でのアピールができます。中小企業にとっての優秀な人材とは、社長の思いを受けとめて夢を実現するために、社長の心を自分の心として動いてくれる人といえます。そういった人材を育てるためには、社長自らが社員へ夢を語り、社長の心を伝える必要があります。

広島のある建設会社は、社員100人程度の規模ですが、採用枠10人の会社説明会に700人が訪れ、300人が試験を受けます。この会社説明会では、社長が壇上に立ち、熱弁をふるいます。7〜8年前の説明会の参加者は30人以下で、業界では平均的な人数でしたが、会社説明会で社長が話す内容が、社会に出るうえで非常に参考になることや、社長の人柄が大学生のなかで話題になり、年々増え続け、このように多くの人を集めるようになったといいます。結果、優秀な人材を採用できるようになり、売上高も4年で2倍になりました。ある社員は、入社のきっかけを次のように語ります。「大手を中心に就職活動を行なっていました。しかし、この会社の説明会に参加し、自由度が少ない大手よりも、この会社のほうが自分の能力が発揮できそうだと感じました」

また、ある製菓会社(社員数約700人)は、毎年30〜40人を採用していますが、資料請求は4000人、試験を受けるのは1500人。この会社は、ガラス張りの経営を行なっていますが、社長が自分の考えを毎週、社内報で伝えることを22年間続け、これに寄せられた社員の声には全部、社長が返信。その数は年間1000通以上といいます。社長の考えを直接知ることができ、意見も伝えられるという環境が、ロイヤリティを高めるとともに、この取り組みが就職活動中の学生にも伝わり、よい結果を生んでいます。

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