メルマガとは
「メールマガジン」の略。電子メールを利用した情報提供サービス。登録している読者に配信される仕組み。無料で見られるものが多く、ニュースから趣味関連まで幅広く用意されており、個人でも発行可能。
電子メールを利用して発行される雑誌。発行者が購読者に定期的にメールで情報を届けるシステムのこと。
発行元に自分のメールアドレスを登録することによって、次回発行時から届くようになる。バックナンバー(過去の記事)はWebサイト上で取り寄せられるようになっていることが多い。有料のものと無料のものがある。無料のものには数行の広告が入っていることが多い。
発行者は企業や個人など様々である。内容も、企業による製品情報や、ニュース記事、特定の分野についての講座的な読み物、日記など、極めて多岐にわたる。企業による定期的な情報配信は世界的にも一般的であるが、個人が発行するメールマガジンが数万種に及ぶ状況は、日本のメールマガジン(いわゆる「メルマガ」)文化に特徴的である。
その理由としては、「まぐまぐ」のような、配信システムを無料で提供する事業者の存在により、個人が手軽に発行できる環境が整っている点や、インターネットの回線インフラの進歩が遅れたことから、相対的にWWWなどより電子メールの利用が先に広まり、情報メディアとして早期から注目を集めた点などがある。
「有料メルマガ」はなぜ高くても“売れる”のか?
毎日、何かしら送られてくるメールマガジン(以下、メルマガ)。スパム扱いされるものも多いなか、購読料を支払って読む「有料メルマガ」の購読者数が伸びている。
メルマガ配信最大手の「まぐまぐ」(京都府京都市)では、2010年1月の時点で2万5000人だった有料メルマガの購読者数が2012年12月現在は約7万5000人と、この3年間で約3倍に増えている。
ブログなどと違ってメールで届くため、「わざわざ見に行く必要がない」「著者に親近感が湧く」「PCだけでなく、ケータイやスマートフォン、タブレット端末でも読むことができる」などの理由もあるが、それは無料メルマガにも言えること。無料の画像や動画情報がネット上ではんらんする今、テキスト情報のみのメルマガを「有料でも読みたい」という人が急増しているのはなぜか。
10年以上続いている有料メルマガも
まぐまぐは2001年8月から有料メルマガ配信システム「まぐまぐ! プレミアム」をスタート。10年以上継続している有料メルマガが28誌、5年以上継続しているものは158誌もある。新しい有料メルマガを発行したいという申し込みも、多い日には1日に30〜40件もあるという。
一方、「ニコニコ動画」を運営するドワンゴ(東京都中央区)も2012年8月21日から、ブログを書くだけでメルマガとして自動配信され、動画や生放送中継も配信できる「ブロマガ」をスタートさせた。当初は76チャンネルだったコンテンツは4カ月後の2012年12月末現在で240まで増え、有料ブロマガの購読登録者数は約3万人を超えている。
「ニコニコ動画サイトの月間平均訪問者数は約800万人、平均滞在時間は1時間40分。サイト内を回遊している多くのユーザーから集客できるのが強み」
ブレイクのきっかけは「ホリエモン」
ネットでは、もともと無料だったものを有料化して成功した事例は少ない。そもそも「ネット上の情報は無料」という常識が定着していたため、スタート当初の有料メルマガはアダルト系やギャンブル系など、ユーザーから見て明確な費用対効果があるものばかりだったという。
その壁を打ち破って注目されたのが、2010年2月に有料メルマガをスタートさせ、多くの購読者と莫大な利益を得た堀江貴文氏。堀江氏がまぐまぐで発信しているメルマガの購読料は月額840円。モバイルコンテンツ市場では有料の場合300円が上限といわれていたが、まぐまぐの有料メルマガの平均単価は現在767円と、2 倍以上になっている。
また、東日本大震災のあと、既存メディアが報道しない情報を求める人が増え、多くのジャーナリストが有料メルマガを始めたことも、現在のブームを加速していると見る向きも多い。人気の有料メルマガでは、原発や放射能、記者クラブ問題、選挙報道などが多い。
ここで、有料メルマガが伸びている理由を整理してみたい。
【有料メルマガが伸びている理由(1)】発行者への報酬が多い
まず有料メルマガが増えている理由を発行者(著者)側のメリットから見てみよう。ドワンゴの場合、利益の7割が発行者の分の収入となり、残り3割をシステムの利用料金としてドワンゴが受け取る。まぐまぐの場合、売り上げの5割が発行者の収入になり、まぐまぐはシステム運営、決済、売り上げ金の回収、著者や読者のサポートなどを残り5割で賄う仕組みだ。
書籍を出版した場合と比較してみよう。出版社が著者に支払う一般的な印税率は10%。100万円の印税を得るには、1000円の本を1万部売らなければならない。これに対し、例えばまぐまぐの有料メルマガの場合、100万円の収入を得るには月額1000円の購読料で167人の年間継続読者がいればいいことになる。
【有料メルマガが伸びている理由(2)】一般に流通しないレアな情報が得られる
「堀江氏の有料メルマガが注目されてから、一般の人に『メディアで報じることができないディープな情報が有料メルマガなら読める』というイメージが定着したことが大きい」(まぐまぐ担当者)。
「ネットで配信されるニュースはどのサイトを見ても内容はほぼ同じ。ネットユーザーが知りたいのはニュースそのものよりも、『自分が関心を持っている人物がそのニュースについてどう考えているか』ということ。メディアというフィルターを通さない本人からのダイレクトな情報、一般に流通しないレアな情報を求める人が増えている」(ドワンゴ ニコニコ事業統括本部 宮原敏久氏)。
有料メルマガなら一般には広まっていないレアな情報が得られるのはなぜか。発信する側の心理から考えてみると、ひとつは“守りの壁”が取り払われることだ。
メルマガも含め、ブログ、twitter、ウェブサイトなど無料媒体にはいろいろな人が集まるが、なかには攻撃的な人もいる。そうした人たちに配慮するとある程度抑えた内容にせざるを得ない。配慮を欠くと意図しなくても炎上してしまうが、「有料メルマガはこれまで一度も炎上したことがない」(まぐまぐ担当者)。つまり課金することにより好意的な人だけが集まるので、より踏み込んだことが書けるということになる。さらにメルマガは電子メールなので、配信直前まで編集が可能。そのためより新しい話題を提供できるメリットもある。
もうひとつは、心理的な優先順位。自分のバックボーンを知らない他人に自分が握っている大事な情報を流すのには誰しも抵抗がある。ただ自分のことをよく知っていて、「お金を払っても自分から情報を得たい」と思っている人に貴重な情報を出したいと考えるのが当然だろう。
このように、自分が知りたいことに関する深い情報を信頼している人から得ることができ、1回あたりの購読料が週刊誌とほぼ同じなら、コスト的に見合うと考える人が増えているのだ。
【有料メルマガが伸びている理由(3)】配信者と読者の距離が近く、やりとりが盛ん
無料のメルマガやブログの場合、話題になっているテーマについて知識が浅い人でも読めるので、読者を選別することはほぼ不可能。だが「有料」というハードルを設けることで、発信者にとって質の高い読者だけを自然にフィルタリングできる。つまり有料にすることで、そのテーマに対して一定の知識や認識を持つ“濃いユーザー”が自然に集まり、議論がより深まることになる。
こうした濃いユーザーだけを選別できる有料メルマガの特性をマーケティングに利用する動きもある。女性の間では“美魔女”に象徴されるマニアックな美容情報を求める層と、それなりのケアで満足している層とのニーズの差がどんどん広がっている。
美容家・深澤亜希氏は、2012年12月20日からスタートさせた自身の有料ブロマガ「深澤亜希の週刊鬼美白」で美白マニアのニーズを探り、2013年発刊予定の書籍に反映させたいと考えている。「有料ブロマガならではの美白マニアのコミュニティーを作りたい。既成媒体では制約があって伝えられないスペシャルな美白知識を伝えていきたいし、タブーにもどんどん切り込んでいくつもり」(深澤氏)と意欲的だ。
濃いユーザーが集まり参加人数が限られる有料メルマガではユーザーと発信者の距離が近いので、質問やその答えなどのレスポンスが直接的で早く、その内容が深いのも特徴だ。Twitterの場合、フォロワーが10万人もいるような人だと質問一つひとつにはとても答えられないが、有料メルマガは積極的に返事を返す発信者が多い。「ユーザーとのコメントのやりとりが盛んになると、ブロマガを起点としてユーザーといっしょにコンテンツを作るような形になることも多い。ファンの満足度が格段に高いのが有料メルマガの特徴」だという。
【有料メルマガが伸びている理由(4)】ユーザーが配信者を支援するためにお金を払う
まぐまぐでメルマガを配信している政治家の河野太郎氏は、無料メルマガ「ごまめの歯ぎしり」と同じ内容の有料メルマガ「ごまめの歯ぎしり 応援版」を発行している。無料版の読者は約1万人だが、同じ内容を月額525円を支払って読む読者も数百人いるという。これは河野氏が「有料メルマガの収益を政治活動のために使う」と明言し、「月にコーヒー1杯分の支援をお願いしたい」と呼びかけているため。まぐまぐ担当者は「同じスキームで復興支援や、難病治療、伝統工芸支援などに利用することも可能では」という。
同じ動きはブロマガにもある。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の作者である岩崎夏海氏は自身の有料ブロマガ「ハックルベリーに会いに行くの中で、同じく人気の高い津田大介氏の有料ブロマガ「メディアの現場」について、次のように言及している。
「例えば津田さんは、自分の『ジャーナリスト』という立場を明確にし、その取材体制を確立するという名目で会社を作り、社員を雇い、メールマガジンを発行している。
だからそこで得られた収入は、津田さんの個人的な欲望を満たすためではなく、今後の取材や執筆に活かされるーーつまり読者に還元されるというスキームが明確にされている。
だから、津田さんのテキストにお金を払うことは、単に自分がテキストを読めるというだけでなく、広く社会貢献にもつながるという構造が確立されているのである、それによって、読者がお金を払うことが『痛み』ではなくなり、むしろ『喜び』に転化されているのだ」
はたして、有料メルマガはこれからも伸び続けるのか?
“有料メルマガで食える”のはどんな人?
前回の記事「有料メルマガはなぜ高くても“売れる”のか?」では有料メルマガが伸びる理由を検証した。今回は「有料メルマガで食える人はどんな人?」について検証したい。
#N12月20日に開かれたドワンゴの記者発表会では、メルマガ配信の第一線で活躍している面々による「ブログやメルマガで食える人は本当に増えるのか?」というトークイベントが開催された。
そのなかで、ドワンゴの川上量生会長は「読者を1000人くらい集めることができれば、ネットだけで食べていける(例:月額840円×1000人×0.7→58万8000円の月収)。今、メルマガだけで食べていけている人は50人から100人くらいいるが、今後は数千人程度までは簡単にいけるのではないか」と発言している。
しかしまぐまぐ担当者によると「有料メルマガの読者数は3ケタ、4ケタの人もいれば、ゼロという人もいる」というから、やはり甘い世界ではない。ではどういったジャンルの有料メルマガが、読者がつきやすいのか。
twitterのフォロワーが少なくても成功する!?
まぐまぐで人気があるジャンルは、ジャーナリスト系、ビジネス系、株式投資などの情報系。株式情報では月額1万円というメルマガもあり、なんと数百人が登録しているという。ビジネス系で特に人気があるのは、華々しい成功談だけではなく、「表には出さない失敗した実体験」を赤裸々に綴っているもの。上昇志向の強い若い世代はそうしたリアルな情報を知りたがっているので、引きが強いのだという。
またセミナーや講演に行かなくても情報が得られる「受講系」も強い。受講系のメルマガは、時事問題などへの発言と比べ、情報が古くなりにくいのも人気のポイント。そのほかには旅行体験記系、恋愛系、スポーツ系など人気がある。登録以前のバックナンバーも販売することも出来るため、陳腐化しないコンテンツは売れ続けているという。
また、一般的に「有料メルマガは有名人でないと読者がつかない」というイメージがある。しかし意外なことに、現在まぐまぐで発行している有料メルマガ約1200誌のうち、1000誌が一般人。有名人のメルマガでも「twitterのフォロワー数が多くないと成功しない」ともいわれているが、動画や生放送と組み合わせているブロマガでは、必ずしもその法則が当てはまらないという。有料ブロマガで常に上位にランキングされている『久田将義の延長!ニコ生ナックルズブロマガ』(発行者/久田将義)の久田氏のフォロワーは必ずしも多くない。にもかかわらず人気が高いのは、ニコニコ生放送で頻繁に中継をしているからで、生放送が有料ブロマガのユーザーを集めるツールとなっている。つまり有料メルマガの情報を告知できるほかのネットサービスを、どれだけ多く持っていることが重要なようだ。
また更新回数も重要なポイント。常にブロマガで上位にランキングしている「海燕のゆるオタ残念教養講座」配信者の海燕氏は、1日最低でも3回は投稿し、日によっては6〜7回更新することもあるという。「ブランド力がなくても成功する場合があることを証明した例では。彼のように例え有名でなくても伝えたいことをたくさん持っている人、ポテンシャルの高い人が強い」(宮原氏)。「著名人の有料メルマガでも最初から爆発的に人気が出るのはまれ。知名度がない人で最初は読者が1人もつかなかったとしても、続けていくうちにある時点でファンがつきブレイクすることがある。最初は読者が少なくても腐らず、バックナンバーをきちんとストックしておけば、その時に役立つ」という。
ネット社会になって個人と組織の情報収集力、情報発信力に以前ほどの差がなくなり、知名度のない個人でもプロ顔負けの知識を発信したいと考える人が増えている。一方、ネットにあふれる情報に食傷し、「信頼できる人からの情報はお金を払ってでも知りたい」と願うユーザーもまた増えている。
「有料メルマガは書籍ができないようなニッチな分野で人気が出るケースがある。市場の大きさを自分で判断しないでチャレンジしてみるのもいいのでは」(まぐまぐ担当者)。より濃い情報を「伝えたい」「知りたい」という強い意志が相互にあるとき、最も力を持つのは「文章」というシンプルでダイレクトな形なのだろう。有料メルマガの隆盛は成熟しつつあるネット社会のひとつの象徴であり、今後、予想もしない分野から大ヒットが生まれるかもしれない。